平和と協同のための日本版ピューリッツアー賞 平和・協同ジャーナリスト基金
Home  >> 歴代の受賞者と受賞作品 >> 2018年 第24回平和・協同ジャーナリスト基金賞

2018年 第24回平和・協同ジャーナリスト基金賞

平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF)は11月29日、2018年度の第24回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を次のように発表しました。

受賞者・団体をお招きしての基金賞贈呈式は12月8日(土)午後1時から、東京・内幸町の日本プレスセンター9階、日本記者クラブ大会議室(東京メトロ千代田線・日比谷線・丸ノ内線霞ヶ関駅、都営三田線内幸町下車。電話03-3503-2721)で行います。

贈呈式はどなたでも参加できますが、その後の祝賀パーティーは会費制(3000円)です。

基金賞(1点)

奨励賞(5点)

荒井なみ子賞(1点)

特別賞・審査委員賞(1点)

 第24回平和・協同ジャーナリスト基金賞の選考は、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、佐藤博昭(日本大学芸術学部映画学科講師)、島田恵(ドキュメンタリー監督・写真家)、高原孝生(明治学院大学教授)、鶴文乃(フリーライター)、前田哲男(軍事ジャーナリスト)、森田邦彦(翻訳家)の7氏を審査委員とする選考委員会で行われました。

候補作品は推薦・応募合わせて92点にのぼりました。内訳は活字部門32点、映像部門60点でした。今年度も、改憲、安保、自衛隊、沖縄の基地、核兵器、ヒロシマ・ナガサキ、原発などをめぐる問題を追求した多くの作品が候補作品としてノミネートされましたが、作品の完成度や内容という点では例年に比べ全般的に低調だったというのが審査委員の一致した見方でした。でも、そうした面があったものの、今年も、メデイアのあり方、福島の原発事故、戦後補償問題、公害問題などに迫った力作が光りました。 大賞は琉球新報政治部の「沖縄知事選でのファクトチェック報道」 第24回平和・協同ジャーナリスト基金賞を発表

■基金賞=大賞(1点)に選ばれたのは、琉球新報編集局政治部の『沖縄県知事選に関する報道のファクトチェック報道』でした。

2013年の参院選で「ネット選挙」が解禁されて以来、ネット上にウソの情報を流し、ライバル候補を攻撃する現象がみられるようになった。とくに沖縄で行われる選挙戦はフェイクニュースの標的となることが多く、今年9月の沖縄県知事選では、多くのデマが飛び交った。これに対し、琉球新報政治部は、ネット情報の真偽を確認し発信するというファクトチェックに取り組んだ。選考委では「日本の新聞の選挙報道としては本格的かつ迫力のあるファクトチェック報道であり、大いに評価したい」「これから先、メデイアではますますフェイクニュースが多くなるだろうから、今回の琉球新報政治部のファクトチェック報道への取り組みは新聞報道に新しい道を開いたものとして大変意義がある」とされました。

■奨励賞には活字部門から4点、映像部門から1点、計5点が選ばれました。

朝日新聞記者・青木美希さんの『地図から消される街』は、東京電力福島第1原発の事故から7年後の被災地の現状を紹介したルポルタージュです。インフラ面では再建が進んでいるものの、政府の政策が被災地の歴史、生活、コミュニティを崩壊させ、分断させ、困難に陥らせている実態が、リアルに、かつ克明に描かれていて、読者の心に食い込む。筆者はこうした実態を「人権侵害」と断じる。選考委では「原発事故被災地に関する報道が減り、原発災害は忘れ去られつつある。そうしたメデイア状況の中では、貴重な現地報告である」との発言がありました。

アジア記者クラブは、日本独特の記者クラブ制度の閉鎖性に異議を唱え、開かれた市民のためのジャーナリズムを創出しようという狙いで1992年に設立されたフリーランサーや市民の集まりですが、定例会や「アジア記者クラブ通信」発行など一連の活動が、奨励賞に選ばれました。選考委では、定例会の講師に一般のメデイアにはなかなか登場させてもらえない人を招いたり、「通信」に既存のマスメデイアが報道しない内外のニュースや、発展途上国に関するニュースを積極的に掲載している点が高く評価されました。

映像部門から奨励賞に選ばれた、「沖縄スパイ戦史」製作委員会製作の『沖縄スパイ戦史』(三上智恵・大矢英代監督作品)は、戦後70年以上にわたって覆い隠されてきた、日本の特務機関「陸軍中野学校」出身者たちが、軍の命令で沖縄戦でおこなった事実を明らかにしたドキュメンタリー映画です。彼らは、少年たちを米軍向けのゲリラ部隊に編成したり、波照間島島民を西表島へ強制移住させ、移住島民の多くをマラリアで病死させた。彼らの狙いは何だったのか。映像関係の審査委員は「特定秘密保護法が制定されたり、南西諸島に自衛隊が増強されたり、ミサイルが配備されつつある今、この映画の持つ“今日性”は高く評価されていい」と評しました。

毎日新聞記者・栗原俊雄氏の『戦争責任・戦後補償に関する一連の著作』にも奨励賞を贈ることになりました。日本政府が始めた太平洋戦争ではおびただしい日本人が被害を受けましたが、戦後、元軍人・軍属は手厚い補償を受けたものの、東京・大阪・名古屋大空襲などで被害を被った民間人への補償は今なおありません。シベリア抑留者への補償も十分ではありませんでした。栗原氏はこれを「不平等な戦後補償」として、数十年にわたり、新聞紙面や著作で政府を追及してきました。選考委では「徹底的な現地取材を踏まえた長年にわたるねばり強い取り組みに頭が下がる」という賛辞が寄せられました。

同じく奨励賞に選ばれた、中村由一著、渡辺考・聞き書き、宮尾和孝・絵の『ゲンバクとよばれた少年』は、長崎で被爆した中村氏の語りをNHKディレクターの渡辺氏が、子ども向けに書籍化したものです。中村氏は被差別部落に生まれたが、2歳の時に被爆、両足に大やけどを負う。兄、弟は死亡。家が焼失したので母とともに祖母の家に身を寄せるが、小学校に入学すると、教師、級友から「ハゲ」「ゲンバク」などと呼ばれ、いじめられ、差別される。本書はそうした体験を語ったものです。選考委では「被差別部落民ゆえの差別と被爆による差別。二重の差別に心が痛む」「被爆者の高齢化により、被爆体験をどうやって若い世代に伝えてゆくかが焦眉の課題となっている折から、子ども向けの本で被爆体験を取り上げたのは注目すべきタイムリーな試み」との声が上がりました。

■荒井なみ子賞は、元生協運動家・荒井なみ子さん(故人)を記念して創設された特別賞で、主に女性ライターに贈られる。今年は3年ぶり、8回目の授賞です。

今回は石川県津幡町在住の水野スウさんの『わたしとあなたの・けんぽうBOOK』『たいわ・けんぽうBOOK+』(いずれも自費出版)に贈ることにしました。どちらも、現行憲法を守り、生かすために書かれた手作りの冊子で、憲法を優しい言葉で解説しています。販売もする。そればかりでない。「紅茶の時間」と題する、憲法についてさまざまな人が話し合える場を自宅に設けているほか、頼まれればどこへでも出かけて行って自ら憲法について講演する「出前紅茶」を続ける。選考委では「安倍政権は改憲にしゃかりき。それに引き換え、国民の側の憲法論議はそう熱心ではない。だとしたら、今こそ、水野さんのような活動が効果的ではないか」とされました。

■疾走ブロダクション製作のドキュメンタリー映画『ニッポン国VS泉南石綿村』(原一男監督作品)には特別賞として審査委員賞を贈ることが全員一致で決まりました。

大阪泉南地域は明治末から百年もの間、石綿紡織工場が密集してきた地域で「石綿村」と呼ばれた。石綿の粉じんを吸引すると肺がんを発症するとされ、そうした健康被害を被った労働者とその家族が、国を相手に国家賠償請求訴訟を起こす。その8年間にわたる闘いの日々を活写した2部構成・約4時間の大作です。審査委員の1人は「訴訟活動が生き生きと描かれ、本年度、洋画を含めたドキュメンタリー映画のナンバーワンに推される作品である」と高く評価しました。

そのほか、活字部門では、熊本新聞社の『熊本地震 あの時何が』が最終選考まで残りました。布施祐仁・三浦英之両氏の『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』に対して「自衛隊による日報隠蔽問題を明らかにした力作」と絶賛する声があがりましたが、すでに今年度の石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞しているところから、授賞見送りとなりました。

第24回基金賞受賞者のスピーチ 2018年12月8日、日本記者クラブで

平和・協同ジャーナリスト基金は2018年12月8日(土)、東京・内幸町の日本記者クラブ大会議室で第24回平和・協同ジャーナリスト基金賞の贈呈式を行いました。

贈呈式では、受賞団体代表と受賞者のスピーチがありました。その要旨を紹介します。

基金賞(大賞) 滝本 匠さん 琉球新報社東京支社報道部長

民主主義の根幹を守るための報道

本日は大賞をちょうだいいたしまして、ありがとうございました。 9 月 30 日投開票の沖 縄県知事選挙でネットを中心に、いろいろな 誹謗中傷、デマ、ウソ の情報、いわゆるフェイクニュースと言われるものが出ていることについてチェックしたというのが、この報道の主体です。

そもそも何でこれをやったのかということについては、いろいろな要因があります。その一つに、もともと沖縄には普天間基地の形成過程についての誤った情報など、事実に反 した話がまんえんしていて、私どもがそれを つぶしにかかっていたということがあります。『沖縄フェイクの見破り方』(琉球新報社編集局)などという本を出させていただくなど、そういう素地があった。

そういう中で、県知事選では正しい情報で投票してもらわないと、民主主義が成り立たない。間違った情報を信じて人を選ぶというのでは、民主主義の信頼性というか、根幹がゆらぐのではないかと考えたわけです。結局、4本の記事を書かせていただいた。受賞後、こうした取り組みは先進的だねと言っていただき、うれしかった。

今度の受賞を私たちがネットに書くと、そういうやり方があるのだなと、広く皆さんが 知るところとなり、新聞や放送の世界の中で も「ウチもやってみようか」と思うところが 出てくるかも知れない。ちょっと息苦しい今の状況を何とか変えるような一助というか一石につながっていければなと、期待している ところです。

奨励賞  青木美希さん 朝日新聞記者

忘れないで、福島の避難者を

北海タイムスに入りましたがつぶれてしまい、北海道新聞に移った。そこに 12 年間いて、朝日新聞へ。入ったとたんに東日本大震災が起こり被災地に入って取材しました。その後、担当が変わって いく中で、避難者の皆さんは大丈夫かな? とずっと心配だった。彼らの生活がどんどん厳しくなっていくのに、彼らに関する報道がどんどん減っていく。「助けてください!」という電話が、朝も夜も鳴る。これはマズイなと思って、周りに理解を求めながら、取材を続けてきた。この7年間の取材を1年半かけてまとめたのが、この本『地図から消される 街』です。

7年半以上たち、福島はどうなっているの でしょうか? 最新の数字で、震災による避 難者の数は5万4千人以上。なのに、住宅提 供が打ち切られるなど、支援の打ち切りが続 いています。

どんどん報道がなくなり、避難者が忘れられてゆく。その中で何が起こっているのか? 県外避難者のウツ、不安障害が増えている。こうした中で亡くなる方も出てきている。 看護師をしていた女性が、福島県から子どもと東京へ避難してきた。ダンナさんにはどうして避難するのか理解してもらえず、生活 費を止められた。彼女は働いて子どもたちの 学費を稼ぎますが、働き過ぎで左半身が動かなくなり、仕事をやめざるを得なくなる。加えて、住宅提供が打ち切られ、彼女は自ら命を断つ。震災関連自殺を国が公表しています が今、219 人です。

この本が賞をいただいたことで、避難者の方にたいへん喜んでいただいた。もっと多くの人に読んでほしい。彼らの苦しみを少しでも分かってほしいと思います。

奨励賞  森広泰平さん アジア記者クラブ代表委員

メディアが伝えないニュース伝える

アジア記者クラブ(APC)は1992 年に記者クラブ制度に反 対して、フリーランサーを中心に企業メディアの記者たちが合流する形で結成された。

私が『アジア記者クラブ通信』の編集担当を依頼されてから 15 年になった。ジャーナリズムに関係する団体がいくつもある中で、APCの果たす役割があるのか、独自色を出せるか非常に悩みました。

1997 年ごろから、インターネット新聞の実験が世界で始まった。これが画期的だった のは、それまで新聞社やテレビ局が独占していた情報源が、一般の読者・視聴者にもさらされるようになったということでした。これ によって、新聞・テレビが報じていない世界 が存在していることが分かってきた。

つまり、別のニュースサイトができたわけで、それを読んでいくと、日本のジャーナリ ズムの国際報道では伝えられていない情報があまりにも多いこと、とくにアジア近隣諸国 に関する情報が非常に偏っているということ が分かってきた。それが、国内の政治とか情 報を見る目を曇らせていることも分かってきたのです。

そこで、『通信』は世界のインターネット新聞の記事を翻訳して伝えてきた。非常に重労働ですが、お金がない。ボランティアの協力で続けています。それから、定例会。記者会見の機会のない 人たちをゲストとして招き、発言してもらう。 私どもの意見に賛成する人に限らず、反対する人にも来ていただく。沖縄密約事件で毎日新聞社を追われた西山太吉さん、自衛隊の佐 藤正久・一佐(現参院議員)らにも講演して いただいた。

やるべきことの10%しかできていない。でも、APCは、今の日本のジャーナリズムの中で非常に公共性のある活動と思っている。若い人や次の世代が引き継いでほしい。

奨励賞  三上智恵さん ドキュメンタリー映画『沖縄スパイ戦史』監督

軍隊は国民を守らない

このような名誉ある場に、二度も立たせて いただき、ありがとう ございました。6年前、高江の闘いを撮ったテ レビ・ドキュメンタリー『標的の村』で奨励 賞を受賞した記憶があります。

その後、テレビから映画の世界に移り、辺野古の闘いを撮った『戦場ぬ止み』(いくさばぬとぅどぅみ)、宮古、石垣に作られようとしている自衛隊基地に反対している人たちを撮った『標的の島 風(かじ)かたか』を作ってきた。これに次ぐ作品が沖縄戦のドキュメンタリー『沖縄スパイ戦史』です。

日本では今、強いものに守られたいという国民がわんさか出てきてしまった。「米軍で も自衛隊でも何でもいいけど、中国、北朝鮮 がこわいから強いものに守られたい」と大合唱し、それに反対している沖縄の人はワガマ マだとネットでみんなが言っている。しかし、沖縄戦では、日本軍の失策あるいは意図的な策によって、住民が何の罪もないのに何千人単位で亡くなった。それは、軍隊がいたから起きたことなんですね。軍隊の本質とは何か? 軍隊が住民を守らないということは、沖縄戦を学んだ人ならば分かる。このことを知ってもらいたくて、『沖縄スパイ 戦史』を作ったんです。

沖縄がたいへんだから全国の人に分かってもらいたいという気持ちで作ったことは一度もありません。私は本土の人たちに「沖縄は燃えているかもしれませんが、これは対岸の火事ではなくて、皆さんの服に火がついているということですよ。だから、わざわざこんな映画を作ったんです」と話すんですが、返ってくるのは「沖縄たいへんね。時間があっ たらまた辺野古へ行くわ」。

まるで、他人事です。「あなたの集落のまわりが燃えていますよ!」と言っているのに、「たいへんねー」と言われる、この壁はいったい何でしょう。厳然とした沖縄戦という体験があるにもかかわらず、そこから学ばないで、同じ轍を踏むのであれば、また軍国主義 に飲み込まれてゆきます。

奨励賞  栗原俊雄さん 毎日新聞記者

国の弱者切り捨てに怒りを込めて

賞が欲しくて、10 冊目の著書『シベリア 抑留最後の帰還者』(角川新書)で応募したところ、これまで発表した『シベリア抑留』(岩波新書)、『戦後補償裁判』(NHK出版新書)など一連の著書と併せて評価していただいた。ものすごく嬉しいです。

ぼくがこれまで書いてきたことは、戦争の被害がいかに長く続いているか、戦争被害と いうものがいかにひどいか、国家はいかにいいかげんか、国家がいかに弱者を切り捨てて いるか、ということです。こうした現実に怨念を込め、怒りを込めて書いてきた。今回の 『シベリア抑留最後の帰還者』もシベリア抑留のものすごい悲劇を書いたものです。11年間ソ連に抑留された幹部とその家族を書きました。

戦争に関する取材を本格的に始めて 15 年 くらいになる。ほんとは政治部に行きたかっ たが、そこへ行けなくて学芸部で戦争報道を始めたのですが、やっているうちに、これは ジャーナリズムにかなったことをやっているのではないかなと思うようになったんです。 ジャーナリズムの重要な役割はまず、権力 者の不正や悪をあばくこと。2番目はそれに 苦しんでいる人に光を当てる。3番目は戦争を絶対に起こさせない。この3つですね。

メディアは8月を中心に戦争報道をするので、「8月ジャーナリズム」とやゆされるのですが、ぼくが一年中「8月ジャーナリズム」をやっているものだから、後輩があだなをつけてくれた。常夏記者。彼は、からかおうとして言ったのですけど、これ、すごく気に入っています。奨励というのはもっとがんばれということでしょうから、こんどは大賞をねらってがんばりたい。

奨励賞 中村由一さん(長崎の被爆者)・渡辺 考さん(NHKディレクター)

二重の差別に抗して生きる

渡辺)掛け合いでやりましょう。まず、自己 紹介を。

中村)長崎から来ました。浦上町というとこ ろです。ここに被差別部落があり、しかも原 爆が落ちたところということで、長崎の人たちから指を差されてきました。

渡辺)私から補足させていただきます。今回賞をいただいたのは『ゲンバクとよばれた少 年』(講談社)という児童書です。中村さんがしゃべられたことを私が聞き書きしたというスタイルをとっている。中村さんの半生というか 75 年の人生、とりわけご自身が受けた 被爆者に対する差別と被差別部落出身という 二重の差別をどう克服していったかということを子どもさん向けにまとめたものです。
私の本職はテレビディレクターで、2016 年の夏、ETV 特集の『原爆と沈黙』で長崎浦上の受難を取り上げ、その中で中村さんにイ ンタビューしたことがベースになっています。浦上には昔からカトリックの方が多く暮らしていたが、町の片隅に被差別部落があった。
そのことは長崎の住民には知られていても、ジャーナリズムはタブーにしていたようです。で、被差別部落がからんでくるとなかなか取材ができないのではと思って中村さんを訪ねたら、こういうことは語るべきだし後世に伝 えたいということでした。

中村)人からほめられるのは初めて。小学校での私の呼び名は「ハゲ」とか「かっぱ」。自分が受けた原爆の後遺症によって髪の毛がなかったからです。最終的に先生がつけてくれた自分の名前は「ゲンバク」。その名前が私には一番くやしかった。しか し、そのことを、私は母には言いませんでした。言ったら、かあちゃんが学校へ押し寄せてくる恐れがあったから。そんな思いをこの 本に思い切りぶつけてみました。

渡辺)とりわけ小学校できびしいイジメを受 けたとのことですが、最後の仕打ちとして、卒業式の時、卒業証書をみんなに破られたそうです。破られていない賞状をもらってどうですか?

中村)大事に持って帰ります。亡くなった母に報告をしたいと思います。これからも、子 どもたちの前で、「ゲンバク」と呼ばれた思いを語ってゆきたい。

荒井なみ子賞 水野スウさん エッセイスト

憲法を守るには不断の努力が必要

金沢の隣町からやってきました。この賞の存在は前から存じていた。でも、まさか自分 がいただけるとは思っていませんでした。

毎週水曜日の午後、わが家を開けて「誰でもどうぞ!」という場所、「紅茶の時間」を開 いています。35 年たちました。集まってくる仲間はさまざま。その人たちと「社会のこと、暮らしのことを普通に話そう」と、原発や人 権や安保や憲法のことを語り合い、学びあう場になりました。

仲間たちの合言葉は 「不断の努力を日々普段から」。これ、日本国憲法 12 条が言っていることです。そこには 「憲法が国民に保障する自由及び権利は、国 民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」とある。3年前に憲法ブックを出し、今年の9月、2冊目の憲法ブックを出した。憲法が9条だけでできているのではないということを、みなさんに知ってほしか ったのです。

憲法 13 条には「すべて国民は個人として 尊重される」とある。13 条を一番ぶち壊すのが戦争です。その意味から 13 条と9条は対をなすものだと思っています。

お声がかかれば、どこへでも憲法について話にゆきます。この3年間に全国200カ所ぐらい行かせていただいた。憲法の話をしに行く時、いつも心がけているのは、平らに話す ということ。上から目線で言っても絶対に伝わりません。ある方が「戦争の反対語は対話だ」とおっしゃった。本当にそう思います。 対話している間は殴りあいはできませんから。

特別賞・審査委員賞 原 一男さん 映画『ニッポン国VS 泉南石綿村』監督

日本人のリテラシーが壊れている

特別賞ありがとうございました。こんなことを話すつもりではなかったのですが、しゃ くなので一つだけ言っておきます。

試写会をやります。見に来た人たちが見終わったあとインタビュー させてくださいという。その記事を読むと、書いた人の熱っぽさが記事に表れていて、宣伝会社の人からも「取り上げてくれた媒体が多いから、これ、いけるかもしれないよ」と 言われた。こっちもすっかりその気になって ……。でも、見事にコケた。今までの作品の中で最大にコケた。こんなに面白いのになぜ当たらないのだろう? と私は今も考えているのですが、見る人がバカなのである、それが結論です。

見る側の読み解く能力、リテラシーという言葉を使いますが、日本人全体のリテラシー がすっかり壊れているのではないか。「これ だけ活字媒体で取り上げられた作品だから見 てやろうではないか。見なきゃいけないのではないか」とすら思わないわけですから。映画館に来ない。

これはもう、どうしようもない。こっちもやけくそになって、何でこんなに苦労して作らなければならないのか? と思うことがしばしばです。でも、実はそこが勝負どころですね。そこでやめちゃいけないのだと。

私は 1945 年生まれ。日本が戦争に負け、民主主義が生まれた年に私はスタートしたわ けです。私が育ってきた年月と一緒に民主主 義が日本に根づいていったはずなのです。で すが、今こういう時代になって、民主主義が根づいたのだろうか? という根本的な疑問 がある。そんな中でどんな映画を作ればいいのだろうか? と日々考えております。

第24回平和・協同ジャーナリスト基金賞にノミネートされた作品(2018年)

●は映像関係、カッコ内は推薦者名(敬称略)

 1 根本雅也「ヒロシマ・パラドクス戦後日本の反核と人道意識」<勉誠出版、18・7・10>(自薦)
●2 我妻和樹監督作品「願いと揺らぎ」<ピーストゥリー・プロダクツ、2017>(鎌倉悦男)
●3 渡辺智史監督作品「おだやかな革命」<有限責任事業組合いでは堂、2018>(鎌倉悦男)
●4 ユンミア監督作品「一陽来復」<平成プロジェクト、2018>(鎌倉悦男)
●5 金聖雄監督作品「獄友」<Kimoon Film、2018>(鎌倉悦男、藤田妙子)
●6 大澤未来・遠藤協監督作品「廻り神楽」<ヴイジュアルフォークロア、2017>(鎌倉悦男)
 7 布施祐仁・三浦英之「日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか」<集英社、18・2・28>(三浦英之)⇒第18回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞
 8 田井中雅人「核に縛られる日本」<角川新書、17・10・10>(岩垂弘)
 9 黒川敦彦編著「巨悪対市民 今治発! 加計学園補助金詐欺事件の真相」<モリカケ共同追及プロジェクト、18・11・1>(中村易世)
 10 乗松聡子編著「沖縄は孤立していない」<金曜日、18・5・15>(中村易世)
 11 橋本勝氏の長年にわたる一連の政治風刺漫画(岩垂弘)
 12 相川俊英「清流に殉じた漁協組合長」<コモンズ、18・2・5>(小林義郎)
●13 本郷義昭監督作品「まぶいぐみ -ニューカレドニア- 引き裂かれた移民史」<(株)シネマ沖縄>(鎌倉悦男)
●14 三上智恵・大矢英代監督作品「沖縄スパイ戦史」<ドキュメンタリージャパン他、2018>(鎌倉悦男)
●15 山田英治監督作品「ほたるの川のまもりびと」<Better than today>(鎌倉悦男)
●16 テレビ金沢「拉致と言えなくて-寺越母子の55年」<18・1・29>(鎌倉悦男)
●17 福島中央テレビ「見えない壁 福島・被災者と避難者」<18・2・12>(鎌倉悦男、佐藤博昭)
●18 広島テレビ「いのちのすみか 限界集落6人」<18・5・7>(鎌倉悦男)
●19 日本テレビ「南京事件Ⅱ -歴史修正を検証せよ-」<18・5・14>(鎌倉悦男)
●20 熊本県民テレビ「見えない被災者 熊本地震2年孤立する暮らし」<18・6・4>(鎌倉悦男、佐藤博昭)
●21 渡辺謙一監督作品「国家主義の誘惑」<アルテ・フランス他、2017>(鎌倉悦男)
●22 森康行監督作品「WORKERS(ワーカーズ)被災地に立つ」<日本労働者協同組合連合会センター事業団、2018>(鎌倉悦男、佐藤博昭)
 23 ナガサキの郵便配達制作プロジェクト(代表・齋藤芳弘)の活動(中村易世)
 24 岩垂弘「戦争・核に抗った忘れえぬ人たち」<同時代社、18・8・9>(千葉智恵子)
 25 中国新聞社「学ぼうヒロシマ 高校生新聞」<18・6>(岩垂弘)
 26 栗原俊雄「シベリア抑留 最後の帰還者」<角川新書、18・1・10>(自薦)
 27 栗原俊雄氏の戦争責任・戦後補償に関する一連の著作(岩垂弘)
●28 山本信子著・小野英子訳「炎のメモワール(原爆被爆手記)」<習志野の小さな風の会、2018>(齊藤裕子)
●29 NHK教育・ETV特集「平和に生きる権利を求めて ~恵庭・長沼事件と憲法~」<18・4・28>(芳賀法子)
●30 NHKBS2・アナザーストーリーズ「その時、市民は軍と闘った~韓国の夜明け 光州事件」<18・6・12>(芳賀法子)
●31 TBS・終戦スペシャル「学徒出陣~大学生は何故死んだ ? あの戦争を忘れない」<18・8・5>(芳賀法子)
●32 NHK総合・スペシャル「駅の子の闘い~語り始めた戦争孤児」<18・8・12>(芳賀法子、関千枝子)
●33 NHK総合・スペシャル「ノモンハン 責任なき戦い」<18・8・19>(芳賀法子、関千枝子)
●34 NHKBS1・スペシャル「悪魔の兵器はこうして誕生した~原爆 科学者たちの心の闇」<18・9・5>(芳賀法子、関千枝子)
●35 北陸朝日放送「言わねばならないこと ―新聞人・桐生悠々の警鐘―」<18・8・30>(黒崎正己)
●36 広島テレビ「すべて土砂に埋まった」<18・9・9>(鎌倉悦男)
●37 ミヤギテレビ「山に、生きる。岩手・宮城内陸地震10年」<18・8・13>(鎌倉悦男)
●38 福岡放送・大分テレビ「つなげるか未来へ」<18・7・29>(鎌倉悦男)
●39 原一男監督作品「ニッポン国VS泉南石綿村」<2017年、配給・疾走ブロダクション>(鎌倉悦男、佐藤博昭)
●40 飯塚俊男監督作品「陸軍前橋飛行場」<2018年、配給・パンドラ>(鎌倉悦男)
●41 テレビ東京「森友公文書改ざん! 自殺職員の父が語る遺書」<18・9・25>(中村易世)
 42 「DAYS JAPAN」 2018年10月号の沖縄関連特集(中村易世)
 43 雑誌「世界」の沖縄特集<岩波書店、2018年9月号と10月号>(岩垂弘)
●44 NHK総合「広島 最後の問い ~見えない謎と向き合った73年」<18・8・6>(関千枝子)
●45 NHKBSプレミアム「トラック島~美しき海に眠る戦争遺跡」<18・8・8>(関千枝子)
●46 NHKBS1「“被爆樹木”ニューヨークへ ~ヒロシマ・NY・2つのサイバーツリー~」<18・8・8>(関千枝子)
●47 NHK総合「長崎平和祈念式典」<18・8・9>(関千枝子)
●48 NHK総合「ルソン決戦“最後”の記録 ~ある衛生兵が見た戦場~」<18・8・11>(関千枝子)
●49 NHKBS1「戦火をぬけた男たちのプレイボール」<18・8・11>(関千枝子)
●50 NHKEテレ「『赤い背中』が残したもの ~『NAGASAKI』の波紋~」<18・8・11>(関千枝子)
●51 NHKBSプレミアム ドラマ×マンガ「戦争めし」」<18・8・11>(関千枝子)
●52 NHKBSプレミアム 映像の世紀プレミアム 第10集「流浪の民の100年」<18・8・11>(関千枝子)
 53 冨田すみれ子「フィリピンの慰安婦像撤去スクープなど一連の慰安婦・戦争問題報道」<日刊まにら新聞>(石山永一郞)
 54 琉球新報取材班「彷徨う―少年少女のリアル」<18・1・5~9・2>(自薦)
 55 小森敦司「『脱原発』への攻防 追い詰められる原子力村」<平凡社新書>(自薦)
●56 NHKEテレ「自由はこうして奪われた ~9万9795人の記録が映す治安維持法の全貌~」<18・8・15>(関千枝子)
●57 NHKEテレ「隠された日本兵のトラウマ~陸軍病院戦時神経症8000人の記録~」<18・8・25>(関千枝子)
 58 アジア記者クラブの一連の活動(木村知義)
●59 中京テレビ「我、生還す神となった死刑囚・袴田巌の52年」<18・10・14>(鎌倉悦男)
●60 広島テレビ「被爆米兵の故郷へ~ヒバクシャ森重明 慰霊の旅~」<18・10・7>(鎌倉悦男)
 61 琉球新報社編著「魂の政治家 翁長雄志発言録」<高文研、18・9・30>(芦澤礼子)
 62 25周年を迎えた「週刊金曜日」の出版・言論活動(芦澤礼子、石渡博明)
 63 北上田毅・山城博治「辺野古に基地はつくれない」<岩波ブックレット、18・9・27>(中村易世)
 64 藤平育子・上岡伸雄・長谷川宏「世界が見たニッポンの政治」<文芸社、18・10・1>(中村易世)
 65 中村由一著、渡辺考・聞き書き、宮尾和孝・絵「ゲンバクとよばれた少年」<講談社、18・7・9>(関口達夫)
 66 熊本日日新聞社「熊本地震 あの時何が」<熊日出版、18・5・31>(岩瀨茂美)
 67 琉球新報編集局政治部「沖縄県知事選に関する報道のファクトチェック報道」<18・9・8~10・6>(球新報編集局)
●68 テレビ西日本「消された記録・消えない真実」<18・8・26>(岸本貴博)
 69 エドワード・スノーデンほか「スノーデン 監視大国日本を語る」<集英社新書、18・8>(中村易世)
 70 日刊ゲンダイの一連の安倍政権・安倍政治批判報道(中村易世)
 71 大塚茂樹「心さわぐ憲法9条―護憲派が問われている」<花伝社、17・12・10>(加藤直子、千葉智恵子)
 72 特定非営利活動法人ワセダクロニクル・特定非営利活動医療ガバナンス研究所「製薬企業から医師へのカネの流れに関する一連の報道とデータベース構築」(自薦) ⇒貧困ジャーナリズム大賞2018を受賞
 73 水野スウ(石川県津幡町)「わたしとあなたの・けんぽうBOOK」<自費出版、15・8・29>「たいわ・けんぽうBOOK+」<自費出版、18・9・15>(窪川典子、山本宗補)
 74 青木美希「地図から消される街」<講談社現代新書、18・6・29>(自薦)⇒貧困ジャーナリズム大賞2018を受賞
 75 伊藤孝司氏の在朝日本人取材の一連のテレビ番組・雑誌記事(自薦)
 76 都鳥伸也・都鳥拓也著、佐野亨編「OKINAWA 1965」<七つ森書館、18・4・18>(柳谷励子)
●77 山口放送「記憶の澱」<17・12・4>(佐藤博昭)
●78 中京テレビ「ビンの中のお父さん」<17・12・18>(佐藤博昭)
●79 テレビ朝日「東京クルド/TOKYO KURDS」<18・2・18>(佐藤博昭)
●80 読売テレビ「山が動く ?日本一広い村・十津川村の挑戦?」<18・3・26>(佐藤博昭)
●81 名古屋テレビ「木魚とライフル ?広がる自衛隊の民間活用?」<18・3・25>(佐藤博昭)
●82 瀬戸内海放送「奇跡を呼ぶ島 ?過疎の島に集う人・宿る命?」<18・43・15>(佐藤博昭)
●83 札幌テレビ「57年目の告白 ?強制不妊 産み育てる尊厳奪われ?」<18・4・16>(佐藤博昭)
●84 中京テレビ「マザーズ 特定妊婦 オンナだけが悪いのか」<18・4・23>(佐藤博昭)
●85 九州朝日放送「結の村 ?東峰テレビが見つめた九州豪雨?」<18・4・29>(佐藤博昭)
●86 東日本放送「津波はまた来る」<18・5・20>(佐藤博昭)
●87 北日本放送「清と濁 イタイイタイ病と記者たちの50年」<18・6・11>(佐藤博昭)
●88 名古屋テレビ「葬られた危機 ?イラク日報問題の原点?」<18・8・19>(佐藤博昭)
●89 山口朝日放送「機雷の眠る海」<18・8・26>(佐藤博昭)
●90 テレビ金沢「行列ができる婆ちゃんコント」<18・9・17>(佐藤博昭)
●91 藤本幸久・影山あさ子共同監督作品「速報 辺野古2018年5月」<森の映画社>(鎌倉悦男)
●92 藤本幸久・影山あさ子共同監督作品「速報 辺野古2018年8月」<森の映画社>(鎌倉悦男)