平和・協同ジャーナリスト基金運営委員会は2021年12月2日、2021年第27回平和・協同ジャーナリスト基金賞を発表しました。 基金賞の選考にあたっては、応募・推薦合わせて88点が集まりましたが、太田直子(映像ディレクター)、鎌倉悦男(プロデューサー・ディレクター)、高原孝生(明治学院大学教授)、鶴文乃(フリーライター)、前田哲男(軍事ジャーナリスト)、本間健太郎(芸能クリエーター)、森田邦彦(翻訳家)の7氏による審査の結果、次のように受賞者・受賞作品が決まりました。 なお、基金賞贈呈式は2021年12月11日、日本記者クラブで行いました。
候補作品88点の内訳は活字部門39点、映像部門49点。今年度は、これらの候補作品のテーマが極めて多様であったことが、まず審査委員の目を引きました。これまでは、核兵器、ヒロシマ・ナガサキ、原発、憲法、安保、沖縄の米軍基地なといった課題を論じたものが大半でしたが、今年はこれらに加えて、日韓問題、関東大震災における朝鮮人虐殺事件、満蒙開拓、外国人労働者問題、入国管理局での人権問題、コロナ禍、「優生社会」化問題などに肉薄した作品が寄せられ、しかも力作が多かったため、入賞作を決める選考委員会の審議は長時間に及びました。
基金賞=大賞に選ばれたのは、ジャーナリスト・元朝日新聞記者、渡辺延志氏の「歴史認識 日韓の溝」でした。
これは「日本と韓国の関係にきしみが増している。戦時中の徴用工をめぐる問題で対立が深まり、最悪と指摘されるまでに関係は悪化した。両国における嫌韓、反日の感情は高まり、憎しみや敵対感を隠さない言動は珍しくなくなった。……それはなぜだろう」との問題意識から、日韓両国の関係史を現地取材や膨大な文献でたどった著作です。「おわりに」に出てくる「問われているのは、過去に何があったかのかということにとどまらず、今日を生きる私たち日本人の歴史認識であるとの思いが強くなった」という著者の言葉が心に残ります。選考委員会では「ドイツは自国が過去に行ったことを繰り返し検証して国民が共通の歴史認識をもつように努めている。だから、敵対国だったフランスとも友好的な関係を築けた。日本人もこれに見習わなくては」「今はこういう著書がぜひ必要」との声が上がりました。
奨励賞には活字部門から5点、映像部門から1点、計6点が選ばれました。
まず、活字部門ですが、池尾伸一・東京新聞編集委員の「魂の発電所 負けねど福島 オレたちの再エネ十年物語」が「東日本大震災から10年。これは、被害を被った地域の市民同士の協同と連帯による新しい経済・エネルギーの仕組みを目指した人びとの闘いの軌跡をまとめた記録で、地域循環型経済の成功例がここにある。福島県で飯舘電力(太陽エネルギー)を始めた出資者80人の努力と成果は、日本各地の農村に大きな刺激を与え、範となるのではないか」と評価されました。
同じく奨励賞となった共同通信取材班の「わたしの居場所」には、審査委員から「コロナ禍によって人びとは分断され、孤立化させられた。格差も拡大した。そんな中にあっても、生きがいや人びとの連帯を求めて、さまざまな生き方を独自に始めた人たちが全国各地に現れた。そうした人たちを紹介した記事はまことに面白く、読ませる」「コロナ禍にめげず、多様な分野、地域で働く人たちの生き方は私たちに希望を与えてくれる」といった賛辞が寄せられました。
やはり奨励賞となった毎日新聞記者・千葉紀和、上東麻子両氏の「ルポ『命の選別』 誰が弱者を切り捨てるのか?」は、医学、生命科学、ビジネス、医療福祉の現場などに「優生思想」が浸透し、そこで「命の選択」が実際に行われていることを浮き彫りにしたルポルタージュです。選考委では「優生思想の本源は何かについて考えさせる優れたルポで、感服した」「本書を読んで、日本社会の『優生社会』化には、日本人の生産第一主義や経済優先思考が大きく影響していると思った」といった発言がありました。
イラストレーター、橋本勝さんの政治風刺漫画はよく知られています。とくに、長年にわたる反戦、反核、憲法第9条擁護をテーマとしたイラストは多くのファンの心をつかんできました。平和運動のあるところ、必ず橋本さんのイラストがあったと言っても過言ではないでしょう。選考委では、このところ毎年、橋本さんの仕事が授賞候補に挙げられてきましたが、今年は選考委の冒頭で、満場一致で橋本さんに奨励賞を贈ることが決まりました。
宮田求・北日本新聞社編集委員の「連載・神の川 永遠に―イ病勝訴50年」も奨励賞受賞となりましたが、これは、日本4大公害裁判の一つ、イタイイタイ病損害賠償訴訟の勝訴から50年を迎えたのを機に、富山県の神通川流域に発症したイタイイタイ病の歴史を検証し、この病の原因と被害の全容を改めて明らかにした大作です。選考委では「綿密な取材に敬服」「私たちは、再び悲劇を繰り返さないために、これまでの公害から学ばなくてはいけない。この連載はそれに応えてくれる」「当時のメディアが、公害報道に積極的でなかったという識者の指摘を末尾に載せていることを評価したい」などの発言がありました。
映像部門から奨励賞に選ばれた札幌テレビ放送の「核のごみは問いかける 『尊重』の先には…」には、「“核のゴミ”は人類にとって大きな問題であるが、その処理場建設の候補地の一つとして北海道の、小さな予算しか組めない町に20億円というエサで調査を強行しようとする政府。町の多くの人びとが反対する中、町長や賛成町民もいて、町は揺れる。その町の姿をとらえ、見る者にこの問題がもつ重要さを考えさせる番組となっている」との賛辞が寄せられました。
この部門で審査委員特別賞を贈ることになった RKB毎日放送の「永遠の平和を あるBC級戦犯の遺書」については、選考委で「戦後76年。再び起こしてはならない太平洋戦争の歴史は日本人の中で風化してゆく。そうした現状の中、この作品は、これまでほとんど知られていなかった事実を掘り起こし、戦犯として裁かれた人びとが、加害者であることと被害者であることを同時に体験していたという事実を中心に描くことで、反戦を強く訴える番組となっている。「今年度の映画、テレビ番組の中では稀有な作品と言える」とされました。
その他、活字部門では、多賀農謙龍・長崎新聞記者の「高校生平和大使に至る道―被爆二世 平野伸人の半生―」<長崎新聞社>と、阿部岳・沖縄タイムス編集委員、石井暁・共同通信編集委員の「辺野古に陸自も常駐」が最終選考まで残りました。 信濃毎日新聞社取材班の「五色のメビウス ともにはたらき ともにいきる」を入賞作にという発言もありましたが、すでに今年度のJCJ大賞を受賞されていたので、授賞見送りとなりました。
渡辺延志(わたなべ・のぶゆき) 1955生まれ。ジャーナリスト。2018年まで朝日新聞に記者として勤務。歴史を主な取材対象とし、青森市の三内丸山遺跡の出現、中国・西安における遣唐使の墓誌の発見、千葉市の賀曽利貝塚の再評価などの報道を手がけた。著書に『虚妄の三国同盟』『GHQ特捜捜査ファイル 軍事機密費』(ともに岩波書店)、『神奈川の記憶』(有隣堂新書)がある。
池尾伸一(いけお・しんいち) 東京新聞・編集委員。1965年、愛知県名古屋市生まれ。89年、早稲田大学政経学部を卒業し、中日新聞(東京新聞)入社。90年代は主に経済部で金融危機を取材。2005~08年、ニューヨーク特派員。エネルギーや雇用問題の担当記者などを経て、2020年8月より経済部長。著書に『ルポ米国発ブログ革命』(集英社新書)、『人びとの戦後経済秘史』(岩波書店・共著)2019年、「貧困ジャーナリズム賞」受賞。
連載企画「わたしの居場所」の狙い 「格差が広がり、分断が進む。新型コロナ禍で拍車が掛かった。行き場を失った人も多い。そんな日本社会で、人々が集う場があり、それらを自ら創り出した人々がいる。この『居場所』に焦点を合わせれば、揺れ動く時代の断面を描けるのではないか、と大型連載を企画。
共同通信の記者・カメラパーソンが各地の居場所を訪れ、週1回の連載を1年間続けた。日本に助けを求めてきた難民を支援する団体、性暴力の被害者が声を上げるフラワーデモ、不登校の子どものためのフリースペース、沖縄戦で学校へ行けなかった高齢者が通う夜間中学、化学物質過敏症患者の建築家が患者のために造った住宅……。じっくり取材し、通り一遍でない物語を引き出すよう努めた。
連載を読んだ社会学者が『大丈夫、この社会は捨てたもんじゃない、と思えた』と記したように、さまざまな分野で起きている問題と、その解決の方向性の提示できたのではないか。特に、コロナ禍で不安が募っているときに、地道に努力する市井の人々の姿を描くことで、前向きな気持ちを伝えられたと思う」(共同通信編集委員・原真)
意図と作品解説 「4年前、国は、高レベル放射性廃棄物=『核のごみ』の地層処分に適した地域を表すマップを公表した。濃い緑色。『輸送面でも好ましい地域』に色づけされたのが、北海道寿都町だ。昨年8月、町長が処分場選定に向けた調査への応募検討を表明し、衝撃が走った。3段階ある調査では、最初の2年間で最大20億円の交付金が与えられる。高齢化が進み、数年後の赤字転落が予想される町財政には魅力的な金額だ。町長宛てに経産相が送った念書には[次の調査に進む際は、市町村長の意見を『尊重』する]と記されていた。調査の途中でやめられると主張する町長だったが、疑問を持つ民からは反対意見が噴出した。結局、町長の独断とも言える決定でマチは全国初の調査開始に向かっていく。
無害化に10万年を要する核のごみの行き場は未だ決まっていない。核と金が結びつく国の制度には危うさがつきまとう。自治体は未来に覚悟を持てるのか、最終処分事業に真の前進はあるのかを問いかける」(文・中内佑)
千葉紀和(ちば・のりかず) 1976年広島県出身。英リーズ大学大学院地球環境学研究科修了。生命科学や医学、宇宙開発、軍事技術分野などを取材。キャンペーン報道「旧優生保護法を問う」取材班で2018年度新聞協会賞、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞奨励賞。書籍「ルポ『命の選別』誰が弱者を切り捨てるのか?」(文藝春秋)で2021年度医学ジャーナリスト協会賞、貧困ジャーナリズム賞。「日本学術会議 軍事研究否定見直し検討のスクープと軍事と学術の接近を巡る一連の報道」で2017年度新聞協会賞候補。千葉大学元非常勤講師(科学技術論理学)共著に「強制不妊―旧優生保護法を問う」(毎日新聞出版)。
上東麻子(かみひがし・あさこ) 1971年東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。障害福祉、精神医療、性暴力などを取材。キャンペーン報道「旧優生保護法を問う」取材班で2018年度新聞協会賞、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞奨励賞。連載「やまゆり園事件は終わったか?~福祉を問う」で2020年貧困ジャーナリズム賞。書籍「ルポ『命の選別』誰が弱者を切り捨てるのか?」(文藝春秋)で2021年度医学ジャーナリスト協会賞、貧困ジャーナリズム賞。共著に「強制不妊―旧優生保護法を問う」(毎日新聞出版)。
橋本勝(はしもと・まさる) 1942年東京に生まれる。新聞、雑誌での社会風刺漫画、映画評を続けること40余年。著書に、「戦争ってナンダ!?」「映画の名画座」(現代教養文庫)、「チャップリン」「黒澤明」「脱原発しかない」(現代書館)、「ヒッチコック ゲーム」(キネマ旬報社)、「どうもニッポン」(筑摩書房)、「20世紀の366日」(ふゅーじょんぷろだくと)(日本漫画協会優秀賞受賞)、「PEASE」「21世紀版戦争と平和」(七つの森書館)「憲法絵本」「風刺漫画 アベ政権」(花伝社)「絵本脱原発憲法」(Tウォッチ)など他多数。風刺マンガ展、漫画絵本の読み聞かせを各地で上演。
宮田求(みやた・もとむ) 1989年に早稲田大学教育学部地理歴史専修を卒業後、北日本新聞社に入社。社会部、政治部、八尾婦中支局、南砺総局などに勤務。射水市民病院の延命中止、「平成の大合併」、利賀村収入役の多額横領事件など地方自治、医療に絡む取材を主に担当。2019年から編集委員。05~06年には、小泉改革によって揺らぐ地域医療をテーマとした連載「いのちの回廊」を、取材班の一員として取材・執筆し、「ファイザー医学記事賞優秀賞」を受賞した。
制作の意図 「東京裁判で裁かれた『A級戦犯』は、日本の指導者たちが被告であったこともあり、広く知られている。しかし、下士官や軍属を含め、実戦の場や捕虜収容所での任務に就いた人たちが罪に問われた『BC級戦犯』については、知る人は少ない。920人もが処刑されているにも拘わらずだ。日本で唯一、BC級戦犯を裁いた横浜軍事法廷で、被告46人という最大の事件、『石垣島事件』は、その人数の多さ、複雑さからこれまで番組化されたことはなかった。
処刑された戦犯の遺族でさえも、父親が何をしたのかをいまだに知り得ないという状況を知り、日本とアメリカに残る公文書を検証することを思い立った。一次資料から、何が行われたのか、そして戦争犯罪としてどう裁かれたのかを明らかにすると共に、処刑された青年の遺書を紹介することによって、28歳の心優しい父親が戦犯に問われる戦争のむごさと理不尽さ、平和への思いを伝える」(ディレクター・大村由紀子)
平和・協同ジャーナリスト基金は第27回平和・協同ジャーナリスト基金賞の贈呈式を2021年12月11日、東京・内幸町の日本プレスセンター内、日本記者クラブで行いました。 受賞者は3団体・6個人で、贈呈式では、団体代表と個人の皆さんがそれぞれスピーチをしました。その要旨を紹介します。
ほめられるのが大変乏しい人生を送ってきたので、どう喜んでいいか分からない。3年前に朝日新聞社を辞めたが、現職時代に集めた資料があまりにも多量で自宅に置けないため、栃木県那須の山中に仕事場を確保し、そこにこもって毎日それを読んでいる。今回の本もそのような過程で書き上げた。
若いころはごく当たり前の記者。転機は37歳の時で、青森に転勤を命じられ、そこで出合ったのが三内丸山遺跡。私を捕らえたのは、今まで当たり前だと思っていた歴史像って何だろうっていう疑問だった。以来、自分の胸に沸き起こってくる疑問を追いかけてきた。
その過程で、歴史学、考古学、人類学、民族学、あるいはその周辺科学の先生方にたくさん会った。そこで教えられたのは、物事を徹底して考えよ、ということ。 今回の仕事で言うと、「日本と韓国の歴史認識はなんでこれほどかみ合わないのか?」を、ここ15年ほど考え続けてきた。それが分からなくて何度も韓国へ行った。いろんな人に会い、いろんな本も読んできた。ひたすら何かをやることで書けた本です。
日本では、歴史を伝えるジャーナリズムが大変脆弱で、私はずっと欧米のジャーナリストが書いた歴史を読み続けてきた。その中で、日本のナショナリズムはどのようにして、ジャーナリストが描いた歴史によって補完補強されてきたかを考えてきた。それに対して自分なりにできることをやっていこうと。そんなことに残りの人生をかけてみたい。
『魂の発電所』は普通の人たちの話を書いたものです。再エネにたずさわってきた福島の人たちから学ぶべきものがあるのではないかと。書いたというよりも書かされた、書かざるを得なかった、ということでしょうか。
2016年、経済部のデスクの時、飯舘村でソーラー発電所ができたので調べてみたら、参加している人の顔ぶれがすごくて、おもしろい。社長が和牛農家、副社長が喜多方の江戸時代から続く酒蔵の当主。この人は外資系のヒューレットパッカードの部長を辞めてこちらへ来た、とか。こんな人たちが「福島を自然エネルギーの都にしたい」との一心で集まっていた。すごいことが起こっているのではないかと、福島通いが始まった。
取材すればするほど皆さん人間的魅力があって、プロジェクトにかける熱さも思いも伝わってきた。で、休みの日に出かけて行ったりしてポケットマネーで取材した。
2050年までにカーボンニュートラルをというのが世界的な課題だ。が、日本のやり方は再エネを拡大するというまともなやり方ではなく、「原発も石炭も続けます。だけどCO2は回収します」という。でも、そんな技術は確立されていない。CO2 はどこかに埋めなくてはならない。地震国の日本にはそんなところはない。 今こそ、福島に目を向けるべきではないか。この賞はその助けになる。受賞をありがたいことだと思っています。
共同通信は、編集委員室が中心になって毎年国内、国際に関する2つの連載をやっている。新聞1ページ分を一年間55回続ける大きな連載です。
分断・格差が広がる日本社会で居場所を失う人がたくさんいる一方で、そういう人たちを支えようという人たちもいる。そういう人たちが集まって自分の居場所を作る動きも出てきている。そうしたいろんな居場所を集めれば、2020年の日本社会の現状の断面を示すことができるのではないか、と試みたのが今回の連載『わたしの居場所』です。
とても地味なものですけど、読んでくださった本田由紀さんという東大の教育社会学の先生が「毎回この記事を読むのが楽しみだった。明るいことがない世の中で、この連載を読んで日本社会はまだ大丈夫ではないかと思えた」と書いてくださった。
若い記者の中には、市民運動に偏見をもっている人がいる。市民運動をする人は変わった人たちという意識を持っていて、取材をしたがらない。しかし、今回の連載には、若い記者がたくさん参加した。それが賞をいただき、若い記者も喜んでいるので、これを励みにこれからも若い記者とともに地道に取材を続けたい。
核のごみについての知識がないまま寿都町の核のごみ処分場受入問題に直面し、自分なりに勉強し報道を続けてきた。
寿都町から車で3時間の札幌では、この問題への市民の関心は低く、自分のこととしてとらえていない。それが一番ショックだった。北海道はすでに道北の幌延町で、核のごみの研究施設をつくるために地下350mまで掘り進められようとしている。そういう背景があっても、関心がない。
この番組を作る際には、全国の皆さんにどうしたら関心を持ってもらえるかを一番のテーマとした。核のごみと国の交付金が結びつく現代の制度はどうなのか? そうしたことが全国的な関心がない状況の中で進められようとしているのはどうなのか? そんな現状を全国の皆さんにまず知ってもらおうと思った。
町長は独断で処分場に応募したが、なぜ応募したのか、町長の真の思いを聞きたかった。若い女性記者を派遣したら、単独インタビューに応じ、本当は処分場はできてほしくないのだという思いをにじませたり、処分場を持ってくる気はないとか、カネがもらえたらそれでいいとか、そういう思いを打ち明けるようになった。
先日の町長選で現職が勝利したが、果たして、これからどうなるのか。寿都町のことを全国へ発信するのが私たちの仕事だと思うので、この賞を励みに継続的な取材を続けたい。
なぜ本書を書いたのか? 優生保護法に基づいて国家が推進した戦後最大級の人権侵害とされる強制不妊は姿を消した。しかし、教訓は生かされておらず、日本は形を変えて優性社会化しているのではないか? というのが私たちの思いです。 2018年に強制不妊の被害者が国家賠償訴訟を起こす。毎日新聞は「旧優生保護法を問う」という被害者救済キャンペーンを始め、私たちはその取材班の中心として国家の罪を追及した。結果として一時金の支給法が成立。とはいうものの、私たちはずっと違和感があった。
国賠訴訟はまだ続いていて何も解決してない。しかも、過去のこと、障害者だけの問題だと受け取められがちだった。現代の優性の問題も、メディアはセンセーショナルな事件が起きたときだけ騒ぐ。相模原殺傷事件が典型的です。
一方で同じ時期に、長らく命の選別として許されてきた出生前診断や着床前診断の大幅な拡大が決まった。障害者施設の建設に各地で反対運動が起きている。 相模原事件の被害者たちはなぜ人里離れた場所で集団生活していたのか? なぜそのことが問題視されないのか? 強制不妊から形を変え、より見えにくくなって優性思想が社会に広がっているのではないか?
共著の上東と問題意識が重なり、それぞれが得意分野を生かして、現代の問題に取り組もうとしたわけです。 現在の優性の問題にメディアの関心は高くない。要因の一つは旧優生保護法の時代の自分たちの報道について真摯に検討し、教訓を見出していないからだと思う。どのメディアも障害者に対する強制不妊の機運を高めるような報道をしてきた。重要な教訓はその際に、時代時代に応じてもっともらしい理由づけをしてきたということだ。 この賞を励みに、優性社会化に抵抗する取材と報道を継続していきたい。
先人がいろいろやってきたにもかかわらず、社会が必ずしもいい方向へ進んでいないことに忸怩たる思いでいます。と同時に少し変わってきたのかなというところに希望を持っております。
私たちのルポは、新型出生前診断、それがカップルの本当の意思ではなくて実はビジネスが裏に隠れているとか、優性思想が私たちのそばのそこここにあることを伝えている。 あの相模原殺傷事件では、死刑囚のセンセーショナルな言葉ばかりが取り上げられることに、私たちは強い違和感を感じてきた。メディアも事件が起きた時、「障害者にも同じ人権がある」と言いながら、私たちが報じてきたような事件の裏側にある施設での虐待疑惑だとか、障害のある方々がなぜ私たち以下の暮らしを当たり前のように強いられているのかには目を向けていなかった。そのことにメディア自体の深い反省が必要だ。
私たちの中にも「障害者は殺されてはいけないけど、普通の人以下の暮らしをするのはいいのではないか」という傲りがあると思っている。
私たちの本は決して読んでいて居心地のいいものではない。それは、さまざまな事件が必ず私たちとつながりがあるという問題意識から発生している。取材をしながら自分たちもいかに手を汚しているのか、加害の側に立っていることを突きつけられて、深く考えさせられた。 都合の悪い日本の現実に今後も目を向け続けていきたい。
日本が世界に誇る風刺マンガ家の橋本勝でございます。風刺マンガは描いた人間だけの想像力が試されるのではなくて、見る人の想像力、思考力もが問われていると思う。ぼくが賞をいただいたのも、平和・協同ジャーナリスト基金に集う方が非常に鋭く深い想像力と考察力を持っていることの証明ではないか。
戦争は戦争するためにするので、いつまでたっても終わらない。ぼくは言いたい。「あんたたちは国家の上に立って物を言ってる。我々が考えなくてはならないのは国家の上に立って平和とか戦争を考えるのでなく、地球の上の一市民でしかない人間として戦争と平和を考えなくてはいけないのだ」と。 そしたら、いかにしたら兵器をたくさん持てるかとか、どうしたら敵に勝つための兵器を持つことができるか、なんて言えるわけがない。
人間だから戦争とか平和とか言っているのであって、他の命の持ち主たちはそんなこと考えない。人間も地球上のすべての生命の一員として考えないといけない。その視点から考えないと、いつまでたっても戦争はなくなりません。 このまま行ったら、新しい核戦争が起こる。それをどんどん警告しなくてはいけない。風刺は日本を変え、世界を変える。だから、ぼくはあと10年、やりますよ。欲張って100歳まで風刺マンガを描こうと思っているので、その時にはもう一度賞をください。
今回の連載で取り上げたイタイイタイ病は、富山県の神通川流域で起きた国内4大公害病の一つ。富山県にとっては風化させてはいけない問題です。
昨年の今ごろ、上司からやってみないかと言われた。損害賠償訴訟勝訴から50年。風化が進む問題に改めて関心を持ってもらうにはどうしたらいいか。それには新しい切り口が必要と考え、主要なテーマの一つにしたのがイタイイタイ病患者に対する激しい差別の問題だった。
この病はカドミウムの摂取によって骨がもろくなり、もう死んだほうがマシと思わせられる苦しみを伴う。それだけでなく、周囲から差別された。身体の苦しみと地域からの差別を引き起こす公害なんてなんと罪深いものだと、改めて思い知らされた。 昨年来のコロナ禍をめぐっても、未知の病に起因する差別という問題を私たちはまだクリアーできていない。連載ではそれを訴えた。
さらに、この病は経済発展を最重視してきた日本のこれまでのあり方を問うていると思った。日本を豊かにという国策を官と民の複合体の力で推進した結果、公害を生んだ。連載では、少数の犠牲があっても大多数が幸せになるならそれに目をつむってもいいのかと問いかけた。
これからも、地方紙の記者として、地域住民の目線あるいは地域の弱者の目線から地域の課題を掘り下げることで、この国の行政とか経済のいびつさを自分なりに浮かび上がらせてゆきたい。
戦争物を作ろうとすると、今、現場では逆風が吹いている。この作品は、他の放送コンクールにも出したが、審査員から「なんで今こんな作品をつくるの」、ご覧になった方からも「意義ある番組だけど、今これをつくる意味が分からない」と言われた。
私なりに考えた。「戦争の惨禍を伝えることが、今、大変大事だから」と。日本国憲法の前文にはこうあります。「再び戦争の惨禍が起ることがないように……この憲法を確定する」と。つまり、私たちの社会のベースにある憲法の上ですべての法律が成り立ち、すべての行政が動き、社会が動いている。このことを若い人に伝えなくてはいけないと思う。
戦争報道は今、難しい局面に来ている。これまでは受け身の取材。体験者のところへ行って話をうかがう。あるいは研究者のところへ行って資料を見せてもらい、必要な書類を撮影してまとめると、なんとなく作品が出来てしまう。でも、証言者が少なくなり、その体験談も正確さを欠くようになってきている。そこで、今回の番組では1次資料に戻って事実を検証した。
審査委員特別賞という素晴らしい賞をありがとうございました
●は映像関係、敬称略(カッコ内は推薦者名)
(活字部門 39点、映像部門 49点)