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大賞にRKB毎日放送の映画「抗い 記録作家林えいだい」

2017年度の基金賞が決定、12月9日に贈呈式

 

 平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF)は、2017年12月1日、第23回平和・協同ジャーナリスト基金賞を発表しました。今年度の候補作品は74点(活字部門35点、映像部門39点)でしたが、この中から次の8点を入賞作としました。

 12月9日(土)午後1時から、日本記者クラブ大会議室(東京・日比谷の日本プレスセンタービル9階)に受賞者・団体をお招きして賞贈呈式を行います。贈呈式の前半は賞状等の授与、後半は祝賀パーティーで、前半のみ参加の方は無料、祝賀パーティーまで参加の方は参加費3000円です。

 

◆基金賞(大賞)1点

 

 RKB毎日放送製作のドキュメンタリー映画「抗い 記録作家林えいだい」(西嶋真司監督)

 

◆奨励賞 6点

 

 ★沖縄タイムス社取材班の連載「銀髪の時代『老い』を生きる」

 ★シンガーソングライター、清水まなぶさんの「追いかけた77の記憶 信州全市町村戦争体験聞き取りの旅」(信濃毎日新聞社)

  ★西村奈緒美・朝日新聞記者の「南洋の雪」(朝日新聞高知版連載)

 ★株式会社パワー・アイ(大阪市)製作のドキュメンタリー映画「被ばく牛と生きる」(松原保監督)

 ★広島市立基町高等学校創造表現コース・美術部の「被爆者の体験を絵で再現する活動と10年間の作品集」

 ★望月衣塑子・東京新聞記者の「武器輸出及び大学における軍事研究に関する一連の報道」

 

◆審査委員賞 1点

 

 書籍編集者・ジャーナリスト、梅田正己さんの「日本ナショナリズムの歴史」全4巻(高文研)

 

 

 今年度の選考で目立ったのは、憲法改定、安保、核兵器、沖縄の基地、原発、「共謀罪」法などに関する問題が今年度も引き続き国民の注目を集めたにもかかわらず、これらの問題に肉迫した作品の応募や推薦が少なかったことです。これについて、審査委員の1人は「ジャーナリズム全体として見た場合、これらの問題への取り組みか低調だったと言わざるをえない」と述べました。そうした面があったものの、今年も、戦前の日本の対アジア政策、核による被害、ジャーナリズムのあり方に迫った力作が並びました。

 

 ■基金賞=大賞(1点)には、RKB毎日放送製作のドキュメンタリー映画『抗い 記録作家林えいだい』が選ばれました。映像作品が大賞に選ばれたのは、2003年に第9回基金賞・大賞を受賞した、グループ現代製作の『ヒバクシャ HIBAKUSHA~世界の終わりに~』以来14年ぶりです。

 この9月に亡くなった林えいだいさんの晩年の活動を追った作品ですが、林さんは福岡県筑豊に腰を据え、朝鮮人強制連行、旧日本軍の特攻作戦などを取材し続けました。選考委員会では「その取材の原点は、反戦思想を貫いた父親の生き方にあった。だから、強制連行や戦争にこだわって取材し記録した。がんに侵されても続けた。弱者へのあたたかいまなざしを持ちながら不正な国家権力を弾劾し続けた林さんのすさまじい執念があますところなく描かれており、今年度の映画・テレビ番組の中で特筆すべき作品」とされました。

 

 ■奨励賞には活字部門から5点、映像部門から1点、計6点が選ばれました。

 沖縄タイムス社取材班の『銀髪の時代「老い」を生きる』は、沖縄における高齢者の介護問題に取り組んだ連載です。それによると、沖縄の高齢者の間で認知症、孤立、虐待などが深刻化しており、「沖縄は住民同士の助け合いが盛んな長寿の島」と思ってきた審査委員を驚かせました。選考委では、連載が、その事態を詳細に伝えるばかりでなく、その背景にあるものにきめ細かな深い取材で迫っている点を称賛する声が相次ぎました。

 

 『追いかけた77の記憶 信州全市町村戦争体験聞き取りの旅』は、シンガーソングライター・清水まなぶさんが、音楽・芸能活動のかたわら、戦後70年を機に、先の大戦をあらゆる角度から見つめてみたいと思い立ち、故郷信州の全市町村を訪ねて戦争体験者への聞き取りをおこない、それをまとめたものです。選考委では「全市町村を訪ねて戦争体験を聞くというやり方が極めてユニーク」「戦争体験談は、戦争でいかにひどい目に遭ったかという被害者の立場からのものがほとんどだか、ここには、731部隊にかかわった兵士や、入植にあたって中国人の農地を奪った満蒙開拓団員の話など、加害の立場からの証言も含まれており、戦争体験記録としては出色」との賛辞が続きました。

 

 朝日新聞記者・西村奈緒美さんの『南洋の雪』は、1954年のビキニ被災事件にからむ新聞連載です。米国の水爆実験によって引き起こされたこの事件では、静岡県の第五福竜丸が被ばくしたが、同船以外にも当時、周辺海域に約1000隻の船がいて、乗組員が被ばくしたのでは、との指摘が年々強まっています。西村さんは高知県在住の当時の乗組員を訪ね、被災の模様と健康被害の実態をまとめたわけですが、乗組員は空から降ってきた“死の灰”を「雪」と思ったようです。選考委では「粘り強い丹念な取材に敬意を表したい」と授賞が決まりました。

 

 原発問題も引き続き重大な課題とあって、原発関係からもぜひと奨励賞に選ばれたのが、株式会社パワー・アイ製作のドキュメンタリー映画『被ばく牛と生きる』です。福島第1原発事故の被災地で、政府の殺処分指示に従わず、被ばくした牛を育てている人たちを記録したもので、経済的価値もなくなった牛を飼う人たちは「愛情をこめて育てた牛を殺すなんてできない」「原発の安全神話を信じ過ぎた」と語る。選考委では「故郷も仕事も奪われた農家の人たちの故郷への熱い思いを伝え、生き物の命の尊厳を問うヒューマンな作品」とされました。

 

 広島市立基町高等学校創造表現コース・美術部の『被爆者の体験を絵で再現する活動と10年間の作品集』も審査委員の心をとらえました。この活動は、原爆被害を後世に伝えていくために広島平和記念資料館が始めた事業で、これに参加した生徒たちは被爆者から体験を聴きながら約1年かけて「原爆の絵」を描き上げ、資料館に寄贈する。同校ではこれとは別の「原爆の絵」制作活動にも取り組んでおり、10年間の作品をまとめたのが『平成19~28年度 原爆の絵』です。選考委では「被爆者の高齢化が進み、やがて被爆体験を語る人もいなくなる。それだけに、若い世代が被爆の実相を絵で伝えてゆくという活動は実に貴重」との発言がありました。

 

 東京新聞記者の望月衣塑子さんへの奨励賞授賞理由は『武器輸出及び大学における軍事研究に関する一連の報道』でした。その根拠として、選考委では彼女の著作「武器輸出と日本企業」(角川新書)と「日本のアカデミズムと軍事研究」(雑誌「世界」17年6月号)などが挙げられました。とりわけ、「武器輸出と日本企業」につきましては、「武器輸出三原則が事実上撤廃されてゆく過程や、日本企業が武器の生産・輸出に傾斜してゆく経緯がとてもリアルに描写されており、それは現状への警告となっている」との評でした。

 

 ■梅田正己さんの「日本ナショナリズムの歴史」全4巻には特別賞として審査委員賞を贈ることが全員一致で決まりました。

 執筆に5年かけた大作で、審査委員の1人は「日本のナショナリズムについて本格的に書かれた本としては初めてのものではないか」と述べ、さらに「本書は、日本のナショナリズムの中軸にあるのは天皇制であること、しかも、そうした性格をもつ日本ナショナリズムが明治以降の日本を形成する上で決定的な役割を果たしたばかりでなく、そうした流れが戦後、そして今日の安倍政権下でも続いていることを明らかにしている」と高く評価しました。

 

 ■そのほか、活字部門では、長尾俊彦さんの『国家と石綿』(現代書館)、アジア記者クラブの活動、広岩近広さんの『核を葬れ!』(藤原書店)が最終選考まで残りました。西日本新聞取材班の『新 移民時代』は、外国人労働者の実態を追った企画記事で、選考委では「外国人労働者問題を多角的に解明した力作」と絶賛する声があがりましたが、すでに今年度の石橋湛山記念ジャーナリズム大賞を受賞しているところから、授賞見送りとなりました。

 今年度も荒井なみ子賞の該当作はありませんでした。

 

 

<受賞者・団体のプロフィル(敬称略)>2017

◆基金賞(大賞)

 

RKB毎日放送製作の「抗い 記録作家 林えいだい」(配給・グループ現代)

 

作品紹介

「福岡県筑豊を拠点に、北九州の公害運動をはじめ、朝鮮人強制労働、炭鉱・港湾労働、戦争の実相など、歴史に翻弄された人々をテーマに健筆を揮ってきた記録作家・林えいだい83才。林が記録作家になった背景には、反戦思想を貫き、警察の拷問を受けて命を落とした父親の存在があった。 戦時下、国家権力に抗うことがいかに悲惨な結果を招くか、国家によって肉親を奪われた幼少時の記憶が、林を虐げられた人々の救済と鎮魂へと駆り立てていった。

林は、徹底した聞き取り取材により、見捨てられ、虐げられた人々の無念の記憶をたどる。がんに侵された今、人生の集大成として取り組んでいるのは、旧日本軍特攻作戦の重爆特攻機『さくら弾機』放火事件の真相。 ペンを持つ手もままならず、セロテープでペンを指に巻き付けながら懸命に記録を残す。“命”の重さと向き合う記録者の目に、日本という国はどのように映っているのか」

 

監督  西嶋真司(にしじま・しんじ)

1981年、RKB毎日放送入社。1991年から1994年までソウル特派員。現在は番組制作部門に所属し、「コタ・バル~伝えられなかった戦争」(2011)、「嗣治からの手紙~画家はなぜ戦争を描いたのか」(2014)など戦争を中心とするドキュメンタリー番組を制作。

(「抗い 記録作家 林えいだい」公式ホームページから)

 

◆奨励賞

 

★沖縄タイムス社取材班の連載「銀髪の時代『老い』を生きる」

 

連載の意図

 「沖縄が『長寿の島』と呼ばれたのも一昔前の話となった。中高年の死亡率は全国一高く、次世代の高齢者の健康状態は課題山積だ。出生率の高さなどを背景に、全国と比べれば緩やかな高齢化をたどってきたが、65歳未満の現役世代は2年前から減少に転じ、超高齢社会が目の前に迫る。今年1月に始まった連載『銀髪の時代』や関連記事は、20~30代の取材班が認知症高齢者や家族のほか、介護現場や地域活動に密着。市町村や在宅介護者への独自アンケートなどを通して当事者たちの赤裸々な声を丹念に拾うとともに、『ゆいまーる』と呼ばれる助け合いの精神がさまざまな場で崩れかけている実態を浮かび上がらせた。

 沖縄戦とそれに続く米軍占領時代を生き抜いた高齢者は、老後も苦境の中にいる。そうした問題意識を持ちながら、地域や家族の再生を模索し、老いてさらに輝ける人生とは何かを見つめ直す材料を、引き続き読者へ提供していきたい」 (沖縄タイムス社編集局社会部・新垣綾子)

 

★「追いかけた77の記憶 信州全市町村戦争体験聞き取りの旅」(信濃毎日新聞社)

 

 清水まなぶ(しみず・まなぶ)

 シンガーソングライター。長野県長野市(旧・豊野町)で育ち、中学の頃よりバンドを組みステージに立つ。高校卒業後、上京。2000年、小室哲哉・木根尚登両氏のプロデュースにより自身作詞作曲の「サンキューニッポン」でデビュー。以後、CMソングやドラマ主題歌を手掛け、NHKドラマに出演。音楽を中心にテレビ、ラジオ番組出演、俳優、イベントプロデュースとマルチに活動を続ける。これまでCD14枚をリリース。愛、平和をテーマに歌い続ける。2007年、祖父の戦争体験を歌った「回想」を発表。戦時体験の聞き取り報告活動「回想プロジェクト」も始め、小中高校や企業、地域イベント、成人式などで歌と語りの講演を行っている。2012年よりレストランライブ「A CHAIN OF LOVEマンスリーギャザリング」を毎月開催。ホームページ https://www.manaboom.net/

 

★「南洋の雪」(朝日新聞高知版連載、2016.5 ~ 12)

 

西村奈緒美(にしむら・なおみ)

 1983年、北海道名寄市生まれ。横浜国立大学大学院で修士課程を修了し、時事通信社に入社。仙台支社で約3年働き、その間に東日本大震災が発生する。大災害に遭遇し、「ルポや連載を書きたい」との思いから朝日新聞社に転職。奈良総局で1年、高知総局で3年を過ごす。2017年春から東京本社社会部。

 

★株式会社パワー・アイ製作の「被ばく牛と生きる」(配給・太秦)

 

作品紹介

「原発事故から2か月後、国は“警戒区域にいる全ての家畜を殺処分する”指示を出す。避難を強いられる農家は、涙を飲んで殺処分に応じるしかなかった。しかし十数軒の畜産農家が被ばく牛を生かそうと決意した。住んではならない警戒区域の中に住み、また数十キロ離れた避難先の仮設住宅から通い、被ばくした牛の世話を続けている。被ばく牛を生かす唯一の道、『大型動物による世界初の低線量被曝研究』に役立てること。国策による事故でありながら、国は全人類にとって必要なこの研究から手を引いていく。事故翌年、牛に原因不明の白斑が出現。大学研究者は原因を調べるも、被曝との因果関係を立証するには、さらに数年の時間がかかると言う。原発事故で、故郷も仕事も奪われながらも、経済価値のない牛を生かし続ける畜産農家の心情を5年間にわたって丁寧に記録した作品です」

 

監督 松原保(まつばら・たもつ)

1959年、大阪生まれ。1986年東京の番組制作会社に入社。テレビ番組やCM、企業PRなどを数多く手掛けてきた。2008年株式会社パワー・アイの代表に就任。シンガポールのヒストリーチャンネルやブータン国営放送とは日本人として初めて国際共同制作を行った実績を持つ。日本人が持つ「心の文化」を世界に向けて大阪から発信しようと、海外の放送局との国際共同制作を模索している。今回の長編映画は初監督作品となる。

(株式会社パワー・アイのホームページから)

 

★広島市立基町高等学校創造表現コース・美術部「被爆者の体験を絵で再現する活動と10年間の作品集」

 

活動の概要

 「広島市立基町高等学校創造表現コースでは、原爆被害の実相を後世に伝えていくとともに、被爆体験の記憶を継承していくため、広島平和記念資料館が平成16年度から取り組んでいる『次世代と描く原爆の絵』事業に参加し、生徒のうち希望者が制作ボランティアとして、被爆体験証言者と共同で原爆の絵の制作を行っています。

生徒たちは証言者の被爆体験を聴き、想像を絶する光景をどう描くのか悩みながらも、資料を集め、証言者と何度も打ち合わせを行い、約1年かけて『原爆の絵』を描きあげます。そうして完成した『原爆の絵』は平和記念資料館に寄贈され、証言者が修学旅行生などに被爆体験を話すときに、当時の状況をより理解してもらうために使われます。

また、基町高校ではそれとは別の原爆の絵の制作にも取り組んでおり、10年間で被爆者35名の原爆の絵119点を完成させ、日本語と英語の作品集としてまとめました」(広島市立基町高等学校美術科・橋本一貫)

 

★「武器輸出及び大学における軍事研究に関する一連の報道」

 

 望月衣塑子(もちづき・いそこ)

 1975年、東京都生まれ。東京新聞社会部記者。慶應義塾大学法学部卒業。東京・中日新聞に入社。千葉、横浜、埼玉の各県警、東京地検特捜部などで事件を中心に取材する。2004年、日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑の一連の事実をスクープし、自民党と医療業界の利権構造を暴く。また、09年には足利事件の再審開始決定をスクープする。東京地裁・高裁での裁判担当、経済部記者などを経て、現在は社会部遊軍記者。防衛省の武器輸出、軍学共同などをテーマに取材している。二児の母。趣味は子どもと遊ぶこと。

 

◆審査委員賞

 

「日本ナショナリズムの歴史」全4巻(高文研)

 

 梅田正己(うめだ・まさき)

 1936年、唐津市生まれ。書籍編集者・ジャーナリスト。一橋大学社会学部卒業。出版社勤務をへて、72年仲間と共に出版社・高文研を設立。高校生・高校教師を対象に『月刊・考える高校生』の発行とあわせ教育書を手はじめに人文書の出版を続ける。81年から沖縄大学と協力して沖縄戦の戦跡・基地のフィールドワーク「沖縄セミナー」に取り組んだのを契機に、沖縄が直面する問題の書籍を数多く出版する。85年に「国家秘密法に反対する出版人の会」の事務局を担当したことから、翌86年、史上最大の出版弾圧事件・横浜事件の再審裁判の開始とともに「支援する会」の事務局を、2010年に実質無罪を勝ち取るまで24年間担当した。2012年高文研代表を退く。著書:『これだけは知っておきたい・近代日本の戦争』、『「非戦の国」が崩れてゆく』、『「市民の時代」の教育を求めて』(以上、高文研)、『この国のゆくえ』(岩波ジュニア新書)ほか。

 

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